アニメーションと挿入歌の関連性

 映像作品における音には、台詞などの現実に存在する映像の内側の音と、現実には存在しない映像の外側の音がある。後者には、BGMとして用いられる音楽や、バラエティ番組などに用いられる効果音などが考えられる。映像の外側の音たちは、正確には映像とは全く関連のない音である。しかし、それらを付加することにより、映像に強調やアクセントを与えることが可能となる。ここで劇中に用いられている多くの音楽を考えてみると、その大半がインスト曲である。インスト曲ではなくボーカル曲が用いられることは多くない。ここで、テレビドラマよりも番組の構成が固定されており、挿入歌の使用頻度が比較的高いと考えられるアニメーションについて考察を行う。


 アニメーション作品に用いられる挿入歌に関しては、まず大きく二つに分けられる。ひとつは「アニメーションの流れの中で登場人物が歌う歌」で、もうひとつは、「BGMの代わりとして用いられる歌」である。前者は、歌自体がストーリーで大きな意味を持つ場合に多く見られる。歌が大きくストーリーに関わるものとして、「マクロス」シリーズなどがある。この場合、歌によって感銘を受けるのはアニメーションの視聴者だけではない。登場人物自体が歌によって影響を受ける。歌は、登場人物の台詞に等しい役割を持つ。これらは映像の内側の音と言え、「劇中歌」と呼ばれることもある。後者は逆に、映像の外側の音、BGMとして用いられる。以降、文中の「挿入歌」はこちらを指す。多くの場面やテレビドラマの例から考えても、ボーカル曲ではなくインスト曲でもその役割は果たせるはずである。ではなぜボーカル曲を用いるのであろうか。


 挿入歌を用いる作品でも、全てのBGMをボーカル曲で行うということは稀であり、作中の特に重要なシーンのみに用いられる。このことから、挿入歌にはインスト曲よりも、より大きい場面強調の力を期待されていると考えられる。音楽の演奏で感情を表現することは非常に困難である。ボーカル曲のもつ人間の声の力・歌詞に乗せられたメッセージ性を加えることによって、場面を強調させることが可能となるのである。ただ、台詞が多いシーンにボーカル曲を重ねることは理解を妨げることにもなりかねないので、台詞の少なく視覚的に見せるシーンに用いられることが多い。また、連続ストーリーアニメーションの最終回では、オープニング主題歌を挿入歌として用いるパターンも見られる。これは、場面を強調するというよりは、むしろ、視聴者の感情に投げかける効果がある。主題歌である以上、当然作品の主題を歌い込んだ曲であり、確かに場面の強調も行っている。しかしそれ以上に、各話ごとに耳にしている主題歌を流すことで、視聴者の中の作品に対する記憶を呼び起こさせ、感動を与えるという役割を果たす。


 また、挿入歌の歌い手についても違った意図が見られる。一般に、アーティストが歌う場合は先述のとおりの場面強調の効果を期待している。しかし、アニメーションのキャラクターを演じている声優が挿入歌を歌う場合も見られる。歌を使うのであれば、本職歌手の方が、完成度の高い楽曲を作り出すだろう。それにも関わらず、この場合が存在するということは、それに期待されるまた別の効果が存在するということである。それは、台詞とBGMを合わせた効果である。キャラクターと同じ声で歌われる歌は、単純に場面強調のみならず、同時に台詞的な効果も期待していると考えられる。キャラクターたちは同じ時間軸に二つの言葉を発することはできない。挿入歌という形をとり、二つ目の声を追加しているとも言える。これはキャラクターと同じ声だからこそ可能となる効果である。


 これまで述べた挿入歌の役割を利用した新しい例として、アニメーション「練馬大根ブラザーズ」がある。歌手の松崎しげる氏を、歌手を目指す主人公の声優として起用し、アニメ全体をミュージカル風に仕上げてある。作中では台詞の代わりに劇中歌が多用され、それは台詞とBGMの役割を同時に果たす。序盤から中盤にかけては娯楽色の強い作品であるが、終盤では真面目な展開になる。主人公たちが歌を以って事件を解決するのだが、最後に歌われる歌はそれまでのように劇中歌として録音されたものではなく、感情が大きく表れた「台詞」とも言える歌である。通常のアニメーションでは、BGMとしてインストが流れることが多く、それ故に部分的に流される挿入歌が力を持つ。しかし、この作品では、劇中歌を流すという日常が、部分的な「台詞」の力を増しているのである。


 これまで書いてきたことは、全て、映像と音楽が順接的に繋がっており、それが順接的に視聴者の感情を揺り動かすものである。しかし、映像と音楽を逆説的に繋ぐ効果もある。アニメーション「よみがえる空-RESCUE WINGS-」は、航空救難団の活躍を描いたものであり、生死に関わる事件が多く描かれる。第六話「Bright Side of Life(前編)」は、任務中に死亡した隊員の葬式のシーンから始まる。白黒で描かれた映像は視聴者に重々しい感情を呼び起こすものである。しかし音楽は、隊員の生前の「暗いのは嫌いだから、葬式には大好きなこの歌を流して欲しい」という希望に応える形で、「ひょっこりひょうたん島」を流し出棺が行われる。明るく前向きな歌と、暗く重々しい映像の組み合わせは不気味な感情を視聴者に与える。そして、歌と映像のギャップから、映像の重々しさが視聴者により顕著に伝わってくるのである。


 一口に挿入歌と言っても様々な用いられ方がある。それはインスト曲と同様、また、それ以上の効果を求めて映像の演出として用いられる。アニメーションにおける映像と音楽の関係の常識というものが固まった中で、その常識を覆す用い方をすることで、更に演出の幅が広がっている。映像と音楽の関係は常に変化しつつあり、常識というものは存在し得ないのかもしれない。











…長文ごめんなさい。明日俺が提出するレポートです。レポート課題「映像と音楽の関連」。所要時間二時間弱。書きたいことだと割とすぐ書けるものです。